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ステロイド外用療法
研究分担者 大矢幸弘              
研究協力者 二村昌樹 成田雅美 津村由紀
国立成育医療研究センター内科系診療部アレルギー科
国立成育医療研究センター内科系診療部アレルギー科
要旨 はじめに 目的と方法 結果 考察 結論 参考文献
ステロイド外用療法評価表一覧
評価表の見方
評価法の見方
結果
1.ステロイド外用剤とプラセボの比較(表1)
市販されているすべてのステロイド外用剤においてプラセボとの比較が報告されているわけではなく今回の検索で該当したRCT(Randomized Control Trial)は24論文であった[1-24]。ほとんどのステロイド外用剤は年齢を問わずプラセボよりも効果的であることが示されているが、1% hydrocortisone[1, 12, 14]やtriamcinolone acetonide[15]などでは一部の論文においてアトピー性皮膚炎の治療薬としての効果をプラセボとの比較で有意に検出できていない。このことは、ステロイド外用剤の使用に際しては、重症度や塗布部位を考慮して適切な強さのステロイドの処方をおこなわないと、充分な効果が得られない場合があることを示唆している。またステロイド外用剤の比較対象として頻用されているbetamethasone valerateにはプラセボとのRCTがなく、その有用性は自明であることを前提に他の研究が行われている。またステロイド外用剤をピーナッツオイル[25]や植物性化粧クリーム[26]に加えた場合の検討ではいずれもステロイドを添加した場合の治療効果が有意に改善していたとしている。2003年の検討では古い論文が多かったが、この数年は対象数の多いRCT[20-22]が散見されるようになった。古い論文を含め、エビデンスの水準は1または2の文献が多く、アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用剤の治療効果は明らかで、推奨グレードはAとなる。

2.ステロイド外用剤同士の比較(表2)
このカテゴリーに最も多くのRCT[3, 14, 27-60]があるが古いものが多く、ITT(Intention to treat)解析が行われていないなど、論文の質は高くないものが多い。2003年の検討では2週間から4週間程度の短期のものから長期投与による寛解維持効果や副作用を調べた論文まで散見されていたが、この数年はタクロリムスをはじめとするカルシニューリンインヒビターとの比較の報告が中心で、ステロイド外用剤同士のRCTによる比較はほとんど報告されていない。ステロイド外用剤同士の臨床効果を比較検討した研究のなかには、プラセボとの間に一部の文献で有意差が検出できなかった1% hydrocortisoneを比較対照としているものもある。多くは1% hydrocortisoneより効果が勝るとしている場合[14, 31, 34, 56, 61]が多いものの、両者の違いに有意差を検出できなかったものもある[43]。この場合、有意差がないことをもって同等の効果があるという主張は論理的ではない。また、mometasone1日1回塗布とdesonide1日2回塗布を比較して有効性に差がないという論文[58]などがあるが、desonide1日1回塗布との比較で効果の優劣を見ているわけではなく、ステロイド外用剤の塗布頻度は1日1回でも複数回でも差がないというメタアナリシスの結果(後述)が公表されているので、このデータからは前者の方がより効果的であるとの結論を導くことは早計である。clobetasolを用いてステロイド外用剤の剤形による差を検討した論文では、ローションとクリームによる有意な差はみられていない[18]。このようにステロイド外用剤同士を比較した論文は多数あるが、同一条件で使用しなければ、実際はどの薬剤がより強力であるとか副作用が多いとかいう情報は得られない。ステロイド外用剤の強さのランクは、血管収縮指数などを用いた基礎実験の資料を参考にして決められているが、実際の臨床効果に基づくエビデンスで序列化されているわけではない。こうした不備が存在するものの、ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎治療に対する効果という点では一部の弱いものを除けば明らかで、多くの文献のエビデンスの水準は1または2で、推奨グレードはAといってよいであろう。

3.ステロイド外用剤にその他の薬剤を添加したものとステロイド外用剤単独使用との比較(表3)
抗生剤を添加した場合の効果については全てのRCT[62-71]差が検出できていない。また抗真菌剤の添加に関しては1論文だけRCT[72] がありステロイド単独よりも効果があるとしている。ステロイド外用剤単独の場合よりもcetaphil[73]、セラミド含有の液体せっけん[74]、セラミド含有の保湿クリーム、Sunflower oil、 Oleodistillate[75]などの保湿薬[76, 77]を添加した場合に短期的な治療効果が高いという論文がある。また保湿薬以外にもlaurocapram[78]、pimecrolimus[79]、caffeine[80]などを添加した場合のほうが治療効果が高いことを示す文献がある。一方で10% 尿素[81]や tacrolimusの添加ではそれぞれ有意差がみられなかったという報告もある[82]。ただ、後述するように、いずれの薬剤も単独でステロイド外用剤の代用となるほどの治療効果があるかどうかは不明である。これらのほかに、薬剤ではないが、行動療法を併用した場合とステロイド外用剤単独の場合の比較[83]があり、行動療法を併用した場合のほうが、改善効果が高かったことが示されている。

4.ステロイド外用剤と他の薬剤との比較(表4)
この分野はtacrolimusとのRCTが多いがこれは別の章で詳細な報告があるので割愛する。tacrolimusと同様のカルシニューリンインヒビターの一種であるpimecrolimus(SDZ ASM 981)とbetamethasone valerateとの比較では、前者には濃度依存性に基剤よりも治療効果があるものの、betamethasone valerateほどの有効性はないことが示されている[84]。その他にはcyclic AMP-phosphodiesterase inhibitor であるcipamfylline cream[85]やハーブのカモミール抽出液を含むkamillosan cream[12]との比較がある。前者は基剤に比べて効果はあるがhydrocortisoneほどではないとし、後者はhydorocortisoneに比べて効果が有意であるが基剤との有意差がないとするなど、論文間の結果に矛盾があるので追試が必要であろう。また、コールタール抽出物であるstantarを含むclinitarと1% hydrocortisoneとの比較[86]では、両者とも4週後に著明な改善が得られ両群間には差がなかったとしている。sodium cromoglycateとbeclomethasone dipropionateとの2週間の比較[87]では両者に差はなくどちらも治療前に比べて効果があったとしている。これらのように、両群に差がなく、治療前後で差があるため有効であると主張する場合には、形式的にはRCTであっても、効果判定に関しては本質的に症例集積研究と変わりがないのでエビデンスの水準は4となる。

5.ステロイド外用剤にウェットラップ法を用いた場合の効果(表5)
RCTを行っているものが5報[88-90]あるが、2002年までの3報はウェットラップ法と非ウェットラップ法との比較ではなく実質的にはウェットラップと組み合わせたステロイド外用剤の前後比較試験である。2006年に報告された2報は、非ウェットラップ法と比較してウェットラップ法は有意にSCORADが改善したという左右比較の報告[91]と、有意差は認められなかったという同時対照比較の論文[92]である。ウェットラップ法の効果がうかがえる一方で、後者の報告では抗生剤の使用が増加する、ウェットラップ装着による煩雑さが有る等の短所も述べている[92]

6.ステロイド外用剤の1日の塗布頻度による効果の違い(表6)
4報のRCTがあり、0.05% fluticasone propionate[93]、0.1% halcinonide[6]、0.05% desonide[75]いずれも1回と複数回との統計的な有意差は検出できていないが、0.1%hydrocortisone butyrateでは1日1回よりも2回のほうが改善率がよかったと報告している[94]。しかし、Hoareらのシステマティックレビュー[95]では原著から拾ったデータをもとに再評価を行い改善率には有意差がないと結論付けている。これは原著の著者らは完全寛解者の率で統計を出しているのに対して、Hoareらは明らかな改善者までを含めた率で計算しているために生じた違いである。しかし、有意差が検出できなかったステロイド外用剤には少なくともU群以上に属すると思われる非常に強いステロイドも含まれており、hydrocortisone butyrateはW群の弱い(中程度)ステロイドである。U群のステロイド外用剤は1日1回塗布でもV群のbetamethasone valerateの1日2回と同等の効果を持つとして登場しており1日1回塗布で有効であることは当然といえよう。しかし、W群のステロイド外用剤の1日1回塗布では、ほとんどの患者に改善効果はあるものの不十分な効果しか得られず完全なコントロールが得られないことは臨床上の実感であり、まさにこの原著者らの結果と一致する。したがって、1日1回塗布でよいとするか複数回の塗布を必要とするかは、患者の皮膚状態と使用する外用剤の強さを考慮して決めるべきであって、いかなる状況でも1日1回も複数回も同じ効果が得られるという結論を導くことは不適切であろう。

7.ステロイド外用剤の長期投与に関する効果と副作用(表7)(表8)
ここ数年アトピー性皮膚炎の治療で注目されているものの一つに、ステロイドをはじめとした外用剤による寛解維持療法(Proactive Therapy)がある。急性期の治療で改善した皮膚に、週2日程度の外用剤間欠塗布により再発を予防しようというものである。対象が小児・成人を問わず、いずれの論文もステロイドの寛解維持療法が有効であると報告しており、この治療を推奨している[96-98]。一方で、従来の湿疹病変が再燃した時にのみステロイド外用剤を使用するReactive Therapyでの長期管理を行った論文[99]では、急性期に0.1% hydrocortisone butyrateを用いた群よりも強力なステロイドである0.05%fluticasone propionateを使用した群が3ヶ月後の皮膚状態も良かったと報告している。長期投与による有害事象としてエビデンスの水準が1であるRCTでは、hydrocortisoneの1日2回18週連日塗布でもbetamethasone valerate の1日2回週3日18週塗布でも寛解率に差はなく、どちらも皮膚のひ薄化は生じていない[100]。またmomethasone[41, 101]やfluticasone[8, 96, 102]では週2日で1年近くに及ぶ長期塗布でも最終的に重篤な副作用はなく皮膚の萎縮も一時的であったとしている。しかし、健常人を対象とした6週間の比較塗布試験[103-105]では、betamethasone valerate、mometasone furoate、prednicarbateはそれぞれ基剤に比べると有意なひ薄化をみとめている。
他の論文[106]ではpredonicarbateは6週間の塗布は皮膚のひ薄化や毛細血管の拡張などの副作用はなかったとしているが、clobetasone propionateのような非常に強い外用剤では6週間塗布でひ薄化が生じている[107]。また、半年以上治療歴のある患者に関する日本の調査[108]ではステロイド外用剤の副作用は乳幼児には少なく年長になるにつれて増加していることが明らかとなっている。  症例集積研究によるエビデンスの水準4の研究ではステロイド外用剤による接触皮膚炎[109]や皮膚の萎縮、経皮吸収による副腎機能抑制に関する報告があるが、重症アトピー性皮膚炎ではステロイド外用剤による治療を行う前から副腎機能が抑制されておりステロイド外用剤を使用した適切な治療によってむしろ回復することを示したものもある[110]。また網膜剥離をきたした多くのアトピー性皮膚炎患者が眼球殴打をしているという報告もある[111]。症例対照研究[112]では強いステロイド外用剤では副腎機能低下が起きている症例もあることが報告されている。しかし、mild[113]からmoderate[25, 114, 115]のステロイド外用剤を使用している患者の症例対照研究[116]では副腎抑制や成長障害は見出されておらず、エビデンス水準2のRCT[117]で一部に副腎抑制の症例が認められているものの、一律な結論を導くことはできない。
以上のことからステロイド外用剤による長期維持療法は安全性も高く、推奨グレードAである。

8.ステロイド外用剤の塗布量(表9)
ステロイド外用剤をどのくらい使用するかは非常に重要な問題であるが、適切な量を決定するためのRCTはなかった。しかし、アトピー性皮膚炎の患者を対象に実際に塗布してもらいどの程度の量が必要だったかを調べた論文が存在する。成人の示指の先端から第一関節部までをfinger-tip unit(FTU)とし、口径が5mmのチューブから出した0.025% betamethasone軟膏(成人)[118]および0.05% clobetasone butyrate 軟膏(小児)[119]の量を1FTUとし、体の各部位に塗布するのにどのくらいのFTUが必要かを調べたものである。顔と首では乳児が1FTU、成人が2FTU程度、全身に塗布した場合乳児で8FTU、12歳で36.5FTUで、1FTUが約0.25gに相当するので、1日2回の塗布だと乳児でも8g、12歳だと36.5gになる。これは英国人を対象にした場合の量なので、日本人の場合はもう少し減ると思われる。しかし我が国のステロイド外用剤チューブの口径はより小さく、FTUを基本とした軟膏量の計算方法は日本でも適応可能と思われ、現在では我が国のガイドラインにも引用されている。

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