Journal Club

Treatment of Mice with the Ah Receptor Agonist and Human Carcinogen Dioxin Results in Altered Numbers and Function of Hematopoietic Stem Cells.

Singh KP, Wyman A, Casado FL, Garrett R, Gasiewicz TA.
Carcinogenesis. 2008 Sep 26.

ヒトにおけるリンパ腫や白血病といった骨髄細胞に関連する疾患の発生率は2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD)の摂取により増加することが知られている。TCDDによるaryl hydrocarbon receptor (AhR)の活性化は免疫機能に対して多くの影響を与えるが、その分子生物学的なメカニズムは未だ不明である。著者らはTCDD摂取により起こる骨髄細胞の変化は、TCDDが造血幹細胞(HSC)に影響を与えることによって引き起こされるとの仮説を立てた。

この仮説を検証するためマウスにTCDDを投与したところ、HSCを多く含む分画(LSK cell)の細胞数および細胞増殖能の亢進を認めた。さらにリンパ球系細胞であるB細胞が減少する一方で骨髄球系細胞が増加し、リンパ球−骨髄球のバランスに変化が生じた。またTCDDを投与したマウスからHSCを分取し、放射線照射により白血球減少を誘導したマウスの骨髄へ移植したところ、移植されたHSCは骨髄細胞群の再構成およびhomingを行うことが出来なかった。加えて、培養マウス骨髄細胞にTCDDを添加したところ、未分化な造血前駆細胞の成熟が抑制される一方、分化の進んだ造血細胞では変化を認めなかった。

以上の結果からTCDDはAhRの活性を通じてHSCのシグナル応答を変化させ、その増殖および機能に影響を与えることが示唆された。さらにTCDDは造血幹細胞だけではなく、他の組織の幹細胞へも影響を与える可能性が推察される。

2008年12月17日  友清 淳

Key words:

  • hematopoietic stem cell(HSC:造血幹細胞): 骨髄に存在し白血球、赤血球、血小板へと分化することのできる未分化な細胞。
  • LSK(Lin-/Sca-1+/cKit+)cell: HSCが多く含まれる細胞分画。
  • homing: 末梢のリンパ球が特定のリンパ組織へと遊走する現象。
閉じる