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Constitutively active aryl hydrocarbon receptor expressed in T cells increases immunization-induced IFN-γ production in mice but dose not suppress Th2-cytokine production or antibody production

Nohara K et al. Int Immunol 2009 (Epub ahead of print)

【背景】
Dioxinの一つであるTCDDをマウスに投与すると、胸腺は萎縮し、CTL活性や抗体産生の低下が報告されている。
これらの変化はAhR欠損マウスではみられないため、TCDD-AhRシグナルが与える免疫変調と考えられる。
また、最近、TCDDにより生体内の制御性T細胞(Treg)が増え、Th17細胞への分化が誘導することも報告されている。
以前、筆者らはTCDDを暴露したマウスのOVA抗原に対する免疫応答を調べ、暴露マウスではOVA抗原特異的に
IFN-γなどTh1サイトカイン産生が増強し、IL-5などTh2サイトカイン産生とOVA抗原特異的抗体の産生が抑制される
ことを報告している。 この論文では筆者らが作成した、T細胞だけに恒常的にAhRを発現させたトランスジェニック
マウス(CA-AhR Tgマウス: Tg)を用いて、T細胞におけるAhRシグナルが生体の免疫反応に及ぼす影響を調べた。

【方法】

自然免疫応答:

野生、TgマウスともOVA、NP抗原を腹腔内投与、1週間前後で脾臓細胞と血清を採取した。

獲得免疫応答:

野生、TgマウスともOVA、NP抗原を腹腔内投与し、3週間後に再投与、その1週間後に脾臓細胞と血清を採取した。

【結果】
まず、野生マウスとTgマウスの免疫状態、応答を調べた。Tgマウスは、胸腺が萎縮しT細胞の割合が減少していた。
CD62LCD4+CD25+を発現したTregの割合は増加していた。脾臓の細胞数は減少し、CD4細胞の割合が減少していた。
次に、OVAやNP抗原を用いて、Tgマウスの自然、獲得免疫応答について調べた。自然、獲得免疫ともTgマウスでは
野生マウスと比べて脾臓細胞によるIFN-γ産生は亢進していたが、IL-4、IL-5産生は野生マウスと変わらなかった。
また、いずれの免疫とも、OVAやNP特異的抗体値はIgM、IgG、IgEとも野生マウスと変わらなかった。

次に、TCDDを単回経口投与した後、同じくOVAに対する免疫応答を野生マウスと比較した。TCDDを投与した
Tgマウスでは、さらに胸腺が萎縮し、Tregの割合が増加した。さらに、TCDDを投与しないTgマウスと異なり、
脾臓細胞のIL-4、IL-5、血清中OVA特異的IgM産生が抑制された。最後に、Tgマウスにおける、AhRシグナル制御
遺伝子の発現を調べたところ、チトクローム遺伝子などの発現は増強しており、Tgマウスでは常にAhR標的遺伝子の
発現が増強しているのが確認された。 この論文にてTCDD投与によって誘導される、Th2サイトカインと抗体産生抑制
は、T細胞以外の免疫担当細胞におけるAhRシグナルによって誘導される可能性が示唆された。


2009年6月1日 三苫 千景

Key words:

  • AhR: aryl hydrocarbon receptor ダイオキシン受容体
  • TCDD: 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin AhRのリガンドの1種
  • OVA、NP:動物実験に用いる抗原の一種
  • CTL: cytotoxic T cell, 細胞障害性T細胞


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