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EGF receptor signaling blocks aryl hydrocarbon receptor-mediated transcription and cell differentiation in human epidermal keratinocytes

Sutter HC, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2009;106:4266-71.

【要旨】
転写因子であるaryl hydrocarbon receptor (AhR) はダイオキシンに結合すると、核内へ移行しAhR nuclear translocator (ARNT)と複合体を形成する。AhR-Arnt複合体は遺伝子のxenobiotic response element (XRE)と呼ばれる領域に結合し,cytochrome P450 1A1 (CYP1A1)などの薬物代謝酵素の転写を活性化する。AhRは生体に広く分布しダイオキシンの毒性を仲介するが、表皮ではケラチノサイトの分化を障害することで,角化異常を引き起こすことが知られており,塩素痤瘡形成のメカニズムの一つと考えられている。
著者らはepidermal growth factor (EGF)がダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)によって誘導されるCYP1A1の活性化を抑制することを示した。EGFはAhR-ARNT複合体の共刺激分子であるp300を抑制することで、AhR-ARNT複合体の転写活性を阻害したと考えられた。さらにTCDDが培養ケラチノサイトのフィラグリンの過剰発現、cornified envelope(周辺帯)の過剰産生を誘導し、この角化異常がEGFによって阻害されることを示した。またこのEGFの作用は,EGF受容体の阻害剤であるPD153035によって抑制された。この結果からAhRシグナルがEGF受容体経路により制御されていることが示された。


2009年6月30日 内 博史

Key words:

  • EGF:EGF受容体に結合し,この受容体を発現している細胞の分化・増殖を誘導するサイトカイン
  • フィラグリン:角化の際にケラチン線維を凝集させる
  • 周辺帯:角質細胞の周辺にみられるインボルクリン、ロリクリンなどのタンパク質からなる強靱な構造。
    表皮の物理的・化学的バリアとして働く


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