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Exacerbated immune complex-mediated vascular injury in mice with heterozygous deficiency of Aryl hydrocarbon receptor through upregulation of Fcγ receptor III expression on macrophages.

Nakajima R, et al. J Invest Dermatol. 2018 Mar 29. doi: 10.1016/j.jid.2018.03.1520.

背景:
免疫複合体 (immune complex: IC)を介した組織障害は、血管炎を含む様々な疾患に関与している。Aryl hydrocarbon receptor (AhR)は、環境汚染物質の受容体であり、免疫系統に重要な役割を担っているが、ICを介した疾患の免疫システムにおけるAhRの関与については、ほとんど報告がなかった。


目的:
ICを介した血管炎におけるAhRの役割を明らかにするため、AhRヘテロノックダウン (AhR+/-)マウスを用いて、皮膚と腹腔内のアルサス反応を検討した。


結果:
皮膚のアルサス反応を検討すると、AhR+/-マウスでは、浮腫と出血が増強し、好中球の増加と、CXCL1, IL-6の上昇がみられた。腹腔内のアルサス反応を検討すると、皮膚と同様にAhR+/-マウスで好中球の浸潤が強くみられた。また、マウスの腹膜からマクロファージを分離し、in vitroでICの刺激を加えたところ、AhR+/-マウス由来のマクロファージからCXCL1とIL-6の産生は亢進した。
次に、AhR+/-マウス由来のマクロファージではFcγ receptor** (FcγR) Ⅲの発現が増強していることをフローサイトメトリーで確認した。WT (野生型)マウス由来のマクロファージを用いてFICZ処理の有無の条件下でクロマチン免疫沈降法を行ったところ、リガンド依存性にAhRがFcγRⅢ遺伝子プロモーター領域に結合した。さらに、WTマウス由来のマクロファージをFICZで処理すると、FcγRⅢのmRNAとタンパク質発現が減少した。
以上の結果より、AhRはリガンド依存性に腹腔内マクロファージにおけるFcγRⅢの発現を制御していることがわかった。
次に、clodronate liposome処理で皮膚のマクロファージを除去すると、AhR+/-マウスの皮膚アルサス反応は軽減した。さらに、AhR+/-マウス由来のマクロファージをWTマウスの腹腔内に養子移入し、腹膜のアルサス反応を検討すると好中球の上昇が見られた。一方、FICZをWTマウスの腹腔内に投与すると皮膚のアルサス反応は抑制された。
最後に、皮膚白血球破砕血管炎患者の末梢血のCD14+単球における、FcγRⅢの発現とAhR発現を検討したところ、FcγRⅢは増加し、AhRは減少していた。
これらの結果は、AhRがリガンド依存性にマクロファージのFcγRⅢの発現を抑制し、ICを介した血管炎の増悪を抑制している事を示し、リガンドによるAhRの活性化がICを介した血管炎を含む疾患の治療ターゲットになり得る可能性が示唆された。


Keywords:
*  アルサス反応:ICによる組織障害の古典的な実験モデル。免疫された動物に同じ抗原を接種すると、
   血管周囲に抗原抗体複合体が形成され、好中球の浸潤、ICの活性化が起こり、浮腫、出血がみられる。
** FcγR (Fcγ receptor): FcγR を介してマクロファージがICを認識する。



冬野 洋子 2018/5/2


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