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An endogenous tumour-promoting ligand of the human aryl hydrocarbon receptor.

Nature 2011;478:197-203.

【要旨】
ダイオキシン受容体として知られているaryl hydrocarbon receptor (AhR) の活性化は、胚発生や形質転換、腫瘍形成や炎症など様々な生理現象や疾患に関与していると考えられている。しかしながら、生理的条件下におけるAhRの内因性リガンドについては不明な点が多い。今回、筆者らはトリプトファン (Typ) の代謝産物であるキヌレニン (Kyn) が、ヒトAhRの内因性リガンドであることを同定した。

Kynはがん細胞においてトリプトファン-2,3-ジオキシゲナーゼ (TDO) により恒常的に産生されていた。TDO は主に肝臓に発現しているTyp分解酵素であり、これまでに腫瘍との関連性は知られていなかったが、本研究によりグリオーマに多く発現していることが分かった。さらに、TDO由来のKynがAhRを介してオートクリン/パラクリン的に作用し、抗腫瘍免疫応答を抑制すること、また、がん細胞の生存率や運動能を促進することも明らかにした。

ヒト脳腫瘍においては、TDO-AhR 経路が活性化しており、これが腫瘍の悪性化や生存率の低下に関与していることも示唆された。がんの進行や炎症時には、AhRを活性化するのに十分な量のKynが局所微小環境において産生されている。したがって、本論文はこれまで不明だったAhRの病態生理学的役割を明らかにし、がんや免疫生物学において重要な意味を持つ知見である。


[Keywords]
・tryptophan (Trp): アミノ酸の一種であり、必須アミノ酸に分類される。
・kynurenine (Kyn): tryptophan の代謝産物であり、TDOによりTypから産生される。
・tryptophan-2,3-dioxygenase (TDO): tryptophanの分解酵素。主に肝臓に発現している。

古賀 沙緒里 2011/11/30

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