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1,8-cineole prevents UVB-induced skin carcinogenesis by targeting the aryl hydrocarbon receptor.

Lee J. et. al. Oncotarget. 2017, 8(62):105995-106008

 Aryl hydrocarbon receptor (AhR)は、リガンド活性型転写因子であり、TCDD(2,3,7,8-tetrachlorodibenzodioxin, ダイオキシン類)  benzo[a] pyrene (BaP)などによって活性化され、炎症や癌の発症に関与することが知られているが、UVB照射によってもAhRが活性化され、COX2(炎症性サイトカイン(PGE2)の発現制御に関わる)の発現を誘導することが報告されている。


 一方ユーカリ油の主成分である1,8-cineoleは、抗炎症作用を持つことが報告されており、筆者らは1,8-cineoleを豊富に含む Curcuma zedoaria がUVB誘導性COX-2発現を阻害する結果を得ている。そこで、1,8-cineoleによるUVB誘導性COX-2発現の阻害とその作用機序の解明を目指した。


 HaCaT細胞(不死化ケラチノサイト)をUVB照射するとCOX-2が誘導されるが、1,8-cineoleを添加することにより、UVB誘導性のCOX-2の発現が減少し、さらに炎症メディエーターであるPGE2の発現も減少した。その機序を詳しく調べるため、MAPK経路のリン酸化を調べたところ、1,8-cineole はERK1/2、BRAF、MEKのリン酸化を阻害する一方で、MKK4/7、MKK3/6、JNK1/2などの他のMAPK経路のリン酸化は阻害しなかったことから、1,8-cineoleは、BRAF/MEK/ERK経路を特異的に阻害することでCOX-2の発現を抑制することが示唆された。


 さらに1,8-cineole は、UVB誘導性のAhRの核内移行を阻害し、AhRの下流であるCYP1A1の発現を抑制すること、Src/EGFRのリン酸化を阻害するこが明らかとなった。さらに小分子の結合を調べることができるDrug affinity responsive target stability (DARTS) assayによって、1,8-cineole はAhRに直接作用する一方で、Src及びEGFRには直接結合しないことが示された。さらに、siRNAによるAhRのノックダウンにより、UVB誘導性のCOX-2発現とERKのリン酸化が減少したことから、UVB誘導性のCOX-2発現には、AhRが関与していると考えられた。一方、1,8-cineoleは、UVB誘導性のROS産生、及び、AP-1転写活性には影響を与えなかった。さらに、1,8-cineole は、SKH-1マウスにおいてもUVB誘導性のCOX-2発現を減少させ、腫瘍形成を阻害した。


 本研究は、DARTS assayを用いることで、初めてモノテルペノイドである1,8-cineoleがヒトAhRに直接作用する可能性を示したものである。ただし、1,8-cineoleを、HaCaT cell lysate に添加してもAhRとの結合は観測されないことから、1,8-cineole分解物が、AhRに結合していると考えられる。


 以上より、1,8-cineole(の分解物)は、AhRに直接作用し、BRAF/MEK/ERK経路を介して、COX-2発現を減少させ、UVB誘導性の腫瘍形成を抑制すると考えられた。今後、AhRが関与する他の疾患への応用も期待される。




湯岑 綾子 2018/4/23


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