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ACE2 expression is regulated by AhR in SARS-CoV-2-infected macaques

SARS-CoV-2に感染したサルにおけるACE2発現はAhRによって制御されている

Jiadi Lv, Pin Yu, Zhenfeng Wang, Wei Deng, Linlin Bao, Jiangning Liu, Fengli Li, Qiangqiang Zhu, Nannan Zhou, Qi Lv, Guanpeng Wang, Shunyi Wang, Yabo Zhou, Jiangping Song, Wei-Min Tong, Yuying Liu, Chuan Qin, Bo Huang

Cell Mol Immunol 2021 May;18(5):1308-1310. doi: 10.1038/s41423-021-00672-1. Epub 2021 Apr 1.

SARS-CoV-2によって生じるコロナウイルス感染症(COVID-19)のアウトブレイクの間に、現在1億1500万人以上が感染し、250万人が死亡した。そのような人間の健康への大きな損害にも関わらず、COVOD-19の病因は不明のままである。

発病過程の最初の段階として、ウイルスの侵入はSARS-CoV-2スパイク(S)タンパクと、肺上皮細胞のようなホスト細胞のアンジオテンシン変換酵素(ACE)2との結合によって仲介される。Sタンパク遮断の代替手段として、ホスト細胞のACE2発現をコントロールすると、SARS-CoV-2感染に対して抑制効果が働く可能性がある。しかし、ACE2発現を制御する分子メカニズムは分かっていない。喫煙は肺細胞でのACE2の発現を上方制御することが分かっている。加えてシングルセルRNA-seq解析により、キーとなる抗ウイルスインターフェロンがACE2発現の制御に関与していることが示されている。古典的なSTAT1経路の活性化に加えて、インターフェロンがインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ依存的な回路を介して細胞質転写因子AhRを活性化することが知られている。特にタバコもまたAhRを活性化する。この一致は我々に、AhRは転写によってSARS-CoV-2感染ホストのACE2の発現を制御しているという仮説を立てさせる。

AhRによってACE2が制御されているという仮説をテストするため、我々は最初にAhRを活性化する代表的な内因性リガンドであるトリプトファン代謝物キヌレニン(Kyn)に注目した。ACE2を発現しSARS-CoV-2に感染する可能性があるヒトの肺上皮細胞株BEAS-2Bをモデル細胞株として使用し、ACE2発現に対するKynの推定される影響をテストした。

Kynで処理したBEAS-2B細胞が、細胞質から核へのAhRの転位を促進した。ChIP-qPCRでは、核においてAhRがACE2遺伝子のプロモーターと結合していることがわかった。加えて、Kynで処理したBEAS-2B細胞でACE2のmRNAとタンパクレベルが上方制御されているのがわかった。しかし、この上方制御はAhR阻害薬CH113191の添加によって無効になり、細胞質転写因子AhRはその刺激下でACE2発現を制御できることを提案している。同様の結果がサルのⅡ型肺胞上皮細胞でも得られている。

これらの知見に一致して、AhR欠損肺胞上皮細胞ではKynはACE2上方制御に影響しなかった。トリプトファン代謝物であるFICZはAhRを活性化する外因性アゴニストである。FICZの添加はBEAS-2BとサルⅠ型肺胞上皮細胞においてAhRに依存してACE2発現の増加をもたらした。共に、これらの結果はACE2の発現がAhRによって制御されることを示した。in vitroデータと一致して、ACE2発現の増加に伴ってAhRはKynで処理されたマウスから分離された肺胞上皮細胞の核に局在していた。加えて肺組織でのACE2の発現はKynで処理されたマウスで増加した。

ACE2が肺胞上皮細胞のSARS-CoV-2感染を仲介しているとすれば、ACE2発現の増加はSARS-CoV-2感染を強化し、肺細胞の細胞変性効果を促すことが期待される。RNAスコープ技術を用いて、Kynによって前処置されたBEAS-2B細胞においてウイルス量が増えることがわかった。さらに重要なことに、感染した細胞においてSARS-CoV-2 RNAは活性化し、複製状態にある。

この結果に一致して、二対のウイルス特異的プライマーを用いたPCRの結果は、BEAS-2B細胞においてSARS-CoV-2感染の2または72時間後にウイルス量の増加を示した。そのため、SARS-CoV-2による肺上皮細胞の感染を評価するためにAhR経路をブロックした。RNAスコープとリアルタイムPCRの結果で示されたように、CH223191によるAhR阻害が本当にウイルス量を減少させ、前処置済みのBEAS-2B細胞における複製を抑制することがわかった。

最後に、サルで検証を行った。COVOD-19モデルはSARS-CoV-2の気管内投与によって作製した。感染の7日後サルは安楽死させ、免疫染色のために肺組織を回収した。AhRは感染した肺組織において核に移行していた。AhR活性の増加と一致して、これらの肺組織でACE2発現はより高くなることが免疫染色でわかった。加えて、NPタンパクレベルはACE2発現レベルと相関していた。

このように、AhR阻害によるACE2発現の減少はSARS-CoV-2感染による肺の病理学的なダメージを軽減するのか?この仮説をテストするために、サルをSARS-CoV-2に感染させ、7日間 AhR阻害剤CH223191で処理した。サルを死亡させ、肺組織を分析した。ACE2発現の減少に一致して、病理学的なダメージは改善した。期待したように、CH223191処理群でウイルス量は著しく減少した。

まとめると、この研究データは転写因子AhRがACE2遺伝子のプロモーターに結合することを明らかにし、そのことがACE2発現を促進し、SARS-CoV-2に感染した肺の病状を悪化させることを示した。



村田真帆 2021/07


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