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6-Formylindolo[3,2-b]Carbazole (FICZ) Modulates the Signalsome Responsible for RA-Induced Differentiation of HL-60 Myeloblastic Leukemia Cells.

Bunaciu RP, et al. PLOS ONE , 10(8), e0135668, 2015

【要旨】
6-Formylindolo[3,2-b]carbazole (FICZ) はトリプトファンが UV 照射されることで産生する物質であり、ダイオキシン受容体として知られる Aryl hydrocarbon receptor (AhR) の高親和性の内因性リガンドである。
以前の報告で、患者由来の白血病細胞株である HL-601) に対するレチノイン酸 (Retinoic acid : RA) 誘導性の分化過程において、c-Cbl および AhR を含むシグナロソーム2) が重要であることが示された。また、FICZ が RA 誘導性の分化を促進することを、分化マーカー (CD38, CD11b) の発現や細胞周期の停止 (cell cycle arrest)、機能的分化マーカーである酸化的代謝の評価により確認されている。さらに、FICZ が RA 誘導性のシグナロソームに含まれる多数の分子 (c-Cbl, Vav1, Slp76, PI3K, Src ファミリーキナーゼである Fgr および Lyn) の発現を増加させることも分かっている。
そこで、本研究では、RA 誘導性の分化における分子シグナル応答と分化を促進すると考えられる鍵分子の関連性を FRET および clustering 解析によって検討した。
その結果、FRET により、RA 誘導性の分化過程で AhR と c-Cbl が FICZ 処理時に結合していることが分かった。一方で、AhR は通常 Cbl-bと結合していた。さらに、FACS による分化マーカーの膜表面発現解析の結果および Western blot によるシグナル分子の検出結果を用いて関連性を分析したところ、Cbl-b, p-p38 および pT390-GSK3β がその他の既知の RA 誘導性シグナル分子および表現型と関連しないことも明らかになった。
よって、FICZ と RA の共処理は、典型的な RA 単独処理によるシグナル応答を誘導するだけでなく、別の分化誘導経路も代用していることが示唆された。また、細胞分化に関わるシグナル分子の clustering 解析により、FICZ と RA の共処理は、RA によって誘導されるダイナミックな変化の種類や強度を増強させることも示された。
以上より、RA を用いた分化誘導療法における FICZ 共処理の妥当性が示唆された。そして、この一連の応答の機序には、SFK (Fgr, Lyn) および MAPK (RAF, MEK, ERK) を中心としたシグナロソームの調節および c-Cbl と AhR の相互作用が関連していることが示された。

古賀 沙緒里 2015/8/28

【Keywords】

●1) HL-60 : 白血病患者由来の細胞株で、好中球系の前骨髄球。レチノイン酸や DMSO で顆粒球 (主に好中球) に
  分化することが知られている。
●2) シグナロソーム : 細胞外から細胞内へシグナルが伝わる際に形成されるシグナル伝達複合体。

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