第2部ではNPO法人アラジーポット栗山真理子様、NPO法人日本アレルギーの会丸山恵理様の御二人も加わり、日頃患者の会に良く寄せられる質問に司会の古江増隆先生、第1部で講演をして頂いた大矢幸弘先生、江藤隆史先生が回答する形でディスカッションを行ない、アトピー性皮膚炎の治療に対する理解を深めてゆきました。




外用薬の塗布量の目安について教えてください。(栗山様、丸山様より)



使用量の目安として、finger tip unitがあります。これは大人の人差し指の第一関節までの量が約0.5gで、大人の手のひら二つ分の患部に塗るのが適量という考え方です。アトピー性皮膚炎の患者さんは外用薬を怖がるあまり、塗布量が不足がちになりますが、十分な治療効果を得るためには適切な使用量の目安を知ることが大切です。(回答:江藤先生)


0.5gで手のひら二つ分と考えた場合、5gチューブ1本で手のひら20個分に相当します。たとえば、お子さんの発疹がお母さんの手で何個分くらいかを想像していただくとわかりやすいと思います。仮に、手のひら4個分だとすると、1日1回塗ると5日間でチューブ1本を使い切ることになります。このように、イメージとして捉えていただくとわかりやすくなります(図)。(回答:古江先生)

外用薬の正しい使用方法について教えてください。(栗山様、丸山様より)



最も重要なことは、ステロイド外用薬を中途半端に使用しないことです。まずは皮膚の炎症が治まり、きれいな状態になるまできちんと塗り続け、その後、徐々に減量するのが基本です。1〜2週間使用しても改善がみられない場合は塗り方が悪いとか、ステロイドのランクが適切でないなどの可能性があるため、適切な強さの薬剤に変更しなければなりません。皮膚状態が改善した後は、徐々に保湿剤に移行するようにしましょう。
(回答:大矢先生)



外用療法を中止するタイミングについて教えてください。(栗山様、丸山様より)



小児のアトピー性皮膚炎では、保護者と相談しながら徐々にステロイドを塗る日を減らし、保湿剤の日を増やすようにしています。一般的な目安として、約2週間、保湿剤だけでコントロールできるようになれば、ステロイドから離脱できる可能性は高いと考えられます。一方、タクロリムス軟膏は正常な皮膚からはほとんど吸収されないため、継続して使用することが可能です。一定期間、皮膚状態が正常に保たれると、皮膚組織そのものが正常化するため、再燃の可能性も少なくなるでしょう。(回答:大矢先生)


成人のアトピー性皮膚炎では、ステロイドの離脱がうまくいかないケースが多くみられます。「やめたい」という気持ちが強く、中には勝手に中止される方もおられますが、強引に中止するのではなく、たとえばタクロリムス軟膏などを組み合わせながら体が自然に必要としなくなる時期を待つことが大切です。どう中止するかというよりも、自然治癒力が回復するまでどうコントロールするかが重要です。(回答:江藤先生)




タクロリムス軟膏は新しい薬剤ということで、刺激感や発癌リスクなど副作用に対する心配や不安を持つ患者さんが多くおられます。タクロリムス軟膏の安全性について教えてください。(丸山様より)



刺激感は2〜3日は続きますが、皮疹の改善とともに徐々に弱くなります。医師は使用前に患者さんに十分な説明を行うことで、不安感を解消していただくよう努めています。リンパ腫の話については血中濃度との関連が示唆されておりますが、適正量を使用していれば血中濃度が上がることはまずありませんので、まったく問題はないと考えています。(回答:江藤先生)




これまで、ステロイド外用薬は怖いという理由で民間療法が盛んに行われてきました。最近はガイドラインが作成され、正しいアトピー性皮膚炎治療に対する認識も広まってきましたが、それでも民間療法に対する期待は依然として強くあります。私たちはEBMに基づいた治療の基本をお伝えしたうえで、民間療法はお金がかからなければ用心しながら試してもいいのでは、と答えていますが、そのあたりはいかがでしょうか(栗山様より)



われわれ医師は、藁をもすがる患者さんの気持ちがよくわかりますので、民間療法をまったく否定するわけではありません。ただし、患者さんが冷静に判断できるように、それがどのような治療法で何に効くのかを説明するようにしています。また、ほとんどの民間療法は改善した症例しか宣伝していませんが、悪化するケースもあります。価格の高いものやあまりにも非科学的なもの、ステロイド外用薬の中止を促すような民間療法は避けるべきでしょう。また、民間療法で悪化した場合はすぐにやめる勇気を持っていただきたいと思います。(回答:江藤先生)


民間療法には根拠のないものも数多くあります。良心的な民間療法ではなく非常に高価格な、いわゆるアトピービジネスには要注意です。怪しいと感じたら、必ず主治医か患者の会に相談してください。基本的に、アトピー性皮膚炎は民間療法だけで治るものではありません。あくまでも補助療法であることを忘れずに使うべきでしょう。(回答:大矢先生)



アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは別の疾患とはいえ、アトピー性皮膚炎では食物除去がよく話題になります。食物除去はやめるタイミングが非常に難しいと思われますが、いつ、どのようになれば除去をやめてもいいのか。その判断基準などがあれば教えてください。(栗山様より)



アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは、別の疾患です。ですから、アトピー性皮膚炎で受診された患者さんに、即座に食物除去を行うことはありません。アトピー性皮膚炎に食物アレルギーを合併している患者さんには食物除去を行いますが、単なるアトピー性皮膚炎の患者さんには食物除去は必要ないと考えています。食物アレルギーの診断にはIgE検査がありますが、一般に皮膚炎が悪化するとIgEも高くなってしまいます。本当に食物アレルギーがあるかどうかは、皮膚の状態を改善した後に、採血や皮膚テスト、負荷検査により判断します。食物除去をやめるタイミングについても、やはり負荷検査で陰性であれば制限を解除します。(回答:大矢先生)