アトピー性皮膚炎治療は原因・悪化因子の検索と対策、スキンケア、薬物療法の3本柱が基本となります(図1)。たとえば、この中の一つが欠けても、アトピー性皮膚炎は正しくコントロールすることができません。治療の目標は症状が日常生活に支障がないレベルにコントロールされ、結果的に薬物療法もあまり必要とせず、スキンケアのみでコントロールが可能な状態にもっていくことです。

一般に、症状が改善すると患者さんはすぐに薬物療法をやめようとしますが、ステロイドの急な中止は再発を招く危険性が高く、注意が必要です。医師の指導のもと、完全に良くなるまで徐々に薬の量を減らしていく必要があります。そして症状が軽快したときこそ、まめなスキンケアが必要となります。アトピー性皮膚炎治療におけるスキンケアは特に重要です。アトピー性皮膚炎を良好にコントロールするためには、いかにスキンケアで皮膚を良い状態に維持できるかがポイントとなるでしょう。

図2に示すように、スキンケアは皮膚のケアと環境のケアに大別されます。皮膚ケアのポイントは毎日の入浴やシャワーで皮膚を清潔に保つことですが、注意点として、洗浄力の強い石鹸やシャンプーは避けるようにしましょう。洗浄後は十分にすすぎましょう。次に保湿剤を使った皮膚の保護は大敵である乾燥を避けるためにも重要です。保湿剤は入浴後すぐに使用します。環境刺激に対するケアとしては、紫外線やストレス、発汗を避け、衣類やアクセサリーが刺激になっていないかどうかのチェックも必要です。また、悪化因子を減らすシンプルな部屋も心がけたいものです。


アトピー性皮膚炎治療のガイドラインの普及により、現在では薬物療法におけるステロイド外用薬の使用は常識となりました(図3)。しかし一方で、副作用として顔が丸くなる、骨がもろくなるなどの間違った認識を持つステロイド恐怖症の患者さんもいらっしゃいます。塗り薬は正しく使えばほとんどその様な副作用はおきません。図4はステロイド外用薬による皮膚の副作用をまとめたものですが、皮膚萎縮や顔面によくみられる酒さ様皮膚炎は特に有名なステロイドの副作用といえるでしょう。アトピー性皮膚炎治療では、これらの副作用も含めて、薬物療法の意義や適正な使用量を十分理解しておくことが大切です。また、局所副作用を正しく理解していれば、「いつやめたらいいのだろうか」「早くやめなければ」と悩むことも少なくなります。

アトピー性皮膚炎の患者さんが陥りやすい罠として民間療法があげられますが、ここで興味深いデータを一つご紹介しましょう。図5は米国で実施されたアトピー性皮膚炎治療における臨床試験の結果ですが、プラセボ(実薬の入っていない偽薬)投与の患者さんでもその約2割に改善効果が認められています。これは、どのような治療法であっても患者さんの2割は改善するということを示唆しています。一部の民間療法はこの2割の症例を取り上げてこのような治療は効きますと過大に宣伝することがあります。科学的データに基づかない治療法も多いので十分な注意が必要といえるでしょう。



一般に、アトピー性皮膚炎の患者さんはステロイドの長期使用に対する抵抗感が強いといわれますが、これに代わる外用薬としてタクロリムス軟膏は非常に有用性の高い薬剤です(図6)。タクロリムスは有効成分の分子量が大きいため、正常な皮膚からはほとんど吸収されません。アトピー性皮膚炎は掻き壊した炎症が点状に存在し、それ以外は正常な皮膚です。皮疹のみに効果的に浸透する本剤は、非常に効率的な薬剤といえるでしょう。

タクロリムスの副作用として一過性の灼熱感(ヒリヒリ感)がありますが、ステロイドで炎症を抑えた後に本剤を使用すると灼熱感が少なくなります。また、タクロリムスによってステロイド使用後のフォローが可能になると、強いステロイドで一気に炎症を抑えることもできます。つまり、本剤の登場により、アトピー性皮膚炎治療は思いきったステロイドの使用で短期間に一気に炎症を抑え、その後、タクロリムス軟膏と保湿剤でコントロールする安定した治療デザインが可能となります(図7)

なお、タクロリムス軟膏の添付文書には、「リンパ腫の発現が報告されている」という警告文が記載されていますが、これはマウスに一生涯にわたり大量に使用し、高い血中濃度を維持した場合の実験結果です。通常、ヒトで長い期間、血中濃度が上昇することはまず考えられませんので、安心してお使いいただきたいと思います。
最後に、タクロリムス軟膏を使用する際に守っていただきたいことを表1にまとめました。本剤を正しい方法で使用していただき、もし2週間以上使用しても変化がみられない場合は、ぜひかかりつけの医師にご相談ください。
図1:
アトピー性皮膚炎治療の3本柱
図2:
スキンケア(異常な皮膚機能の補正)
図3:
薬物療法の基本例
図4:
ステロイド外用薬による皮膚の副作用
図5:
民間療法のワナ
図6:
タクロリムス軟膏の特徴
図7:
タクロリムス軟膏の登場によって安定したコントロールが可能となる
表1:
タクロリムス軟膏を使用する際に守ってほしいこと