アトピー性皮膚炎 九州大学医学部皮膚科学教室TOPへ
ステロイド外用療法
研究分担者 大矢幸弘              
研究協力者 二村昌樹 成田雅美 津村由紀
国立成育医療研究センター内科系診療部アレルギー科
国立成育医療研究センター内科系診療部アレルギー科
要旨 はじめに 目的と方法 結果 考察 結論 参考文献
ステロイド外用療法評価表一覧
評価表の見方
評価法の見方
考察
ステロイド外用剤に関する論文は非常に多数あるが、一部のものを除いて古いものが多くそれらは質的には高くなかった。RCTの形式を採用していても、目的とするアウトカム評価を基準に考えた場合は本質的には症例集積研究であったりするなど質的な問題が多かった。しかし1996年にCONSORT声明が公表されて以降、統計手法としてITT解析が明記されるなど論文のエビデンス水準が飛躍的に向上した。
ステロイド外用剤がアトピー性皮膚炎の治療に有効であることは疑う余地がないが、ステロイドの種類によって随分効果に差があるため、ステロイド外用剤なら何でも水準1のエビデンスがありアトピー性皮膚炎の治療に有効であるという結論を導くことはできない。
プラセボとの比較で有意差が検出できなかったものもあり、またそうしたステロイド外用剤は長期の連続投与でも副作用の発現がほとんどない。治療効果が著明で長期使用での副作用がほとんどないようなステロイド外用剤が望ましいのだが、そうした願望を現実に満たしてくれそうなステロイド外用剤は存在しない。
V群以上の強いステロイド外用剤で連日塗布を数ヶ月続けた場合、副作用が生じる可能性は高く、漫然と連日塗布している患者には警鐘を鳴らす必要がある。ただ、長期投与による副作用の回避や寛解維持に関する論文が多く報告され、皮膚状態の寛解導入後に週2日や3日といった間欠投与のProactive Therapyによって副作用の回避と寛解維持を目指すという臨床現場で経験則に基づいて行ってきた使用法にエビデンスが与えられた。また、ステロイド外用剤単独よりも保湿剤と併用した場合のほうが、患者の評価が高いことやステロイド外用剤の使用量を減らすことができる可能性が示唆されており、今後はどのような保湿剤が優れているか、併用療法の方法(臨床現場でよく用いられている混合処方など)についての検討が必要である。
臨床に使用した際のステロイド外用剤の実際の強さに関するランキングについても、今後はエビデンスに基づいて再編される必要があると思われる。そのためにはアウトカム評価や投与期間など研究方法の均質化を図る必要があるが、そうした研究が増えるとpoolable sampleが増えてメタアナリシスによるシステマティックレビューも可能となる。
非常に強いステロイド外用剤では1日あたりの塗布頻度に関しては1日1回でも複数回でも有意差が検出できていないが、このことは1日のスキンケア頻度が1回でも複数回でも効果に差がないということを必ずしも意味しない。特に日本では、春から夏にかけてアトピー性皮膚炎の悪化をしばしば経験し、汗や黄色ブドウ球菌の影響を減ずるために、皮膚の洗浄と保湿によるスキンケア頻度を増すことで皮膚症状の改善を経験する患者が多い。したがって、ステロイドの使用頻度とスキンケアの頻度の問題は分けて検討する必要があると思われる。また、日常診療でよく処方されるV群のステロイド外用剤では1日1回と複数回に差があるかどうかはまだ決着がついていない。
この数年、ステロイド外用剤の長期間欠使用による寛解維持効果と副作用の発現に関する研究が増えつつあるが、メーカーの支援を受けた特定薬剤の研究論文などの出版バイアスの問題や日本で処方可能な薬剤で長期使用経験が発表されたものがわずかしかないなど現実にはまだ問題が多い。
ステロイド外用剤を使用しても改善しないという患者の場合、症状に比して強さのランクが低すぎるか塗布量や塗布頻度が少なすぎる場合が多い。従って、1回当たりの塗布量や塗布頻度を患者に指示して処方する必要があるが、塗布量に関してはRCTがなく、最も効果的な量に関するエビデンスがない。ただ、Longらの論文では実際に患者に薄く均一塗布した場合の量を計測しており、初診時など皮疹がある患者への塗布量の計算の参考にはなる。実際の臨床現場では保湿剤で希釈したり、皮膚状態が改善すると表面積が減少してより薄く塗布することが可能になるため、治療初期や悪化時を除けば論文に記載された量よりは少なくて済むと思われる。
今後はさらに多くのステロイド外用剤でのデータ収集や具体的な使用法や使用量を検討する詳細な臨床研究の実施が望まれる。こうしたステロイド外用剤の使用に際しては、その方法もさることながら、習慣化した掻破行動を消去する行動療法を併用することで、ステロイド外用剤の使用量を減らし、良好なコントロールが可能となることが示唆されており、この分野も今後より詳細な研究を進める必要があろう。
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