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食物アレルゲン除去食療法
柴田瑠美子、手塚純一郎
*国立病院機構福岡病院小児科
クエスチョン

Q1: アトピー性皮膚炎の治療として除去食の効果はありますか?
Q2: 家族にアトピーがある場合、妊娠中、母乳中の除去食は予防効果がありますか?

アンサー
食物アレルゲン除去食療法
Q1: アトピー性皮膚炎の治療として除去食の効果はありますか?

イラスト:食物アレルゲン除去食療法

A1: アトピー性皮膚炎の中でも、乳幼児では30〜40%に食物アレルギーを伴うことが報告されています。湿疹の重症度が高くなるほど、多種食物アレルゲンの感作を受けている傾向があります。食物アレルギーは、血液検査での食物特異IgE抗体(RAST)検査、皮膚テスト、アレルゲン食物の経口負荷試験で食物の影響がどの程度あるか検査して判断されます。これらの食品を食べて、じんましんやかゆみを生じ(アレルギー反応によるヒスタミンの放出によるとされています)、皮膚を掻くことで湿疹を悪化させる一因になっていると思われます。一部は1〜2日後に湿疹が出る場合もあります。アトピー性皮膚炎の除去食療法を検討した論文では、このような食物アレルゲンの関与が明らかな場合に治療効果が見られていますが、この治療期間もスキンケアや外用薬療法は続けられています。また多種食物アレルギー合併では、クロモグリク酸ナトリウム(インタール経口®)を食前に内服する薬物療法を合わせて行うことで皮膚炎改善効果が見られています。
除去食療法はアトピー性皮膚炎の誰にでも効果がある治療法ではなく、乳幼児では食事制限で栄養障害を起こすことがあり、除去食療法の適応については医療機関での判断指導のもとに行う必要があります。
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食物アレルゲン除去食療法
Q2: 家族にアトピーがある場合、妊娠中、母乳中の除去食は予防効果がありますか?
A2: 1)妊娠中の除去食について: アレルギー疾患の発症は、遺伝的な素因と環境因子によるとされています。そのリスクは両親にアレルギー疾患がある場合は60〜80%、片親で38〜58%、家族歴のない場合15%です。このようなリスクのある場合の妊娠中のアレルゲン除去食によるアレルギー発症予防効果については、種々の検討が行われていますが、妊娠期の除去食によるアレルギー発症予防効果は明らかでないと結論されています。明らかな根拠のない妊娠中の除去食は母体・胎児の栄養低下を招く危険性からも行わないよう米国小児科学会、欧州小児アレルギー学会では意見を出しています(だたし、米国小児科学会では、ピーナッツについてはアナフィラキシーショックの代表的なアレルゲンであり妊娠中の除去を勧めています)。わが国では、アレルギーリスクの高い家系では妊娠8ヵ月以降の卵除去、アレルゲンになりやすい食品の偏った過剰摂取を避け(とくに特定の食品にアレルギーをお持ちの方が兄弟・姉妹にいる場合はそのアレルゲン食品)、バランスよく食品を摂取する指導が行われています。
2)母乳栄養中の除去食 母乳には種々の免疫調整物質が含まれており、腸管を介したアレルギーや炎症の予防に役立っています。アレルギーリスク児において3ヵ月の完全母乳栄養によるアトピー性皮膚炎および喘息発症予防効果が評価されていますが、非リスク児では、このような効果は見られていません。一方、母乳中には母親の摂取した食物アレルゲンが検出され、アレルギーリスク児にとっては、食物アレルゲンの影響を受ける可能性があることが明らかになっています。授乳中の母親の除去食によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する研究では、欧州の2つは効果なし、英国、カナダの2つの研究では効果ありの結果が出ています。前者では、妊娠中からの除去食を授乳中も継続し、離乳食を4ヵ月開始、牛乳6ヵ月、卵、魚9ヵ月以降としても効果が見られていません。後者は、妊娠期は除去なし、授乳3ヵ月間に卵、牛乳、魚除去し、離乳開始を6ヵ月としており、離乳前の3〜6ヵ月のアトピー性皮膚炎発症が低かったと報告しています。このような結果から、米国と欧州では授乳中の除去食指導に対する見解が異なっており、欧州では積極的な授乳期の除去食を勧めておらず、米国では、アトピーリスクのある場合は、授乳中の母親のピーナッツ・ナッツ類除去、場合によっては卵、牛乳、魚除去も考慮するとしています。
したがって授乳中のアレルゲン食品除去は、1〜2歳までの食物アレルギー、アトピー性皮膚炎を減らす可能性はありますが発症を完全に予防できる確証はないのです。しかし兄弟に強い食物アレルギーがある場合に、授乳中から特定のアレルゲン食品の除去を行うことは早期の食物アレルゲンの影響を避ける意味はあり、米国や本邦兄弟での効果が見られています。食物アレルギーの多くは自然軽快しやすいことから、高度の除去食を続けることはご家族お子さんの負担を考えると一般的ではなく、それぞれのリスクの程度に応じた対応指導を受ける必要があります。
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