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タクロリムス外用療法
佐伯秀久1)、鳥居秀嗣2)
1)東京大学大学院医学系研究科皮膚科、2)社会保険中央総合病院皮膚科
要旨 はじめに 目的 方法 結果 考察 結論 参考文献
タクロリムス外用療法評価表一覧
評価表の見方
評価法の見方
結果
(1)有効性に関する文献
タクロリムスとADとをキーワードとして(ヒトに限定)検索すると英語論文149件、日本語論文109件がヒットし、このなかで臨床効果に関する原著論文は英語論文29件、日本語論文25件であった。タクロリムス外用薬のADにおける有効性を示す論文は数多いが、本剤が発売された1999年以前のものは基剤やステロイド外用薬との比較試験および至適濃度の設定に関わるものが多く、2000年以降は長期にわたる効果の継続を検討したものや本剤の特性を利用した使用法に関するものなどが多くなっている。また最近では、小児における有効性を解析した論文が目立ってきている。
a. 基剤との比較試験 
先に述べたように、初期の論文では中等症以上の成人ADを対象として、基剤との比較試験により、その有効性を解析したものが多い。1994年にNakagawaら1)が50名を対象として行ったオープン試験が、最初の臨床的有効性に関する報告であるが、その後同様の報告が相次ぎ2,3)、現在までに一連の解析対象で重複しているものを除き、成人ADにおけるタクロリムス外用薬の基剤と比較した有効性を示した主な原著論文は5件4-8)ある。これらの多くは多施設、二重盲検試験を行っているが、中でもHanifinら7)による632名を対象とした解析は最大規模のもので、彼らが中等症から重症の成人AD患者を対象として、基剤のみと0.03%および0.1%のタクロリムス軟膏の3群に分けて検討した結果、90%以上の全般改善度を示した頻度はタクロリムス軟膏群が基剤に比して有意に高く、さらに0.1%軟膏群は0.03%軟膏群と比較しても有意に高い有効性が示されている。
b. ステロイド外用薬との比較試験
ステロイド外用薬との比較試験は1997年頃から本邦を初めとして行われているが、顔面および頚部においては0.1%タクロリムス軟膏73例およびプロピオン酸アルクロメタゾン軟膏70例を解析対象とした群間比較試験があり、これによりタクロリムス軟膏の有意に高い効果が示されている9)。また躯幹や四肢においては、0.1%タクロリムス軟膏78例と吉草酸ベタメタゾン軟膏84例との群間比較試験があり、両者でほぼ同等の有効性が示されている10)。また570名を対象とした大規模な酪酸ヒドロコルチゾン軟膏との比較試験11)によると、0.1%タクロリムス軟膏は0.03%タクロリムス軟膏より有意に高い有効性が示され、0.1%酪酸ヒドロコルチゾン軟膏と有意差のない効果が認められたとされている。
c. 長期使用の有効性
初期の有効性に関する論文は、数週間から数ヵ月間程度までに使用期間を限定した調査・研究がほとんどであったが、その後さらに長期の使用における有効性の維持についても検討されるようになってきた。Reitamoらが316名の18歳以上AD患者を対象として行った、1年間にわたるタクロリムス単独療法の解析結果では、本剤による全般改善度は使用開始1週後から1年間まで連続的に上昇するとされており12)、また、本邦での長期観察試験の結果13)からも、本剤使用開始10週後に90%以上に達した全般改善度は、その後最長で2年間にわたり減弱せず、タクロリムス外用薬の高い有効性が長期に維持されたとされている。また、Sugiuraらは顔面にステロイド抵抗性で難治性の皮疹を有するAD患者51名を対象に、顔面には0.03%タクロリムス軟膏を、顔面以外にはステロイド軟膏を1年間外用する臨床試験を行った14)。彼らが全身皮疹の面積に応じて患者を分類し検討した結果、皮疹が広範囲に分布する群において、顔面の皮疹に対するタクロリムス外用薬の有効性は1年以内に減弱する傾向が認められると報告している。彼らは顔面の難治性皮疹に対してタクロリムス軟膏を長期に使用する場合、顔面以外の皮疹もよい状態にコントロールしておくことが重要であると述べている。
d. その他
Drakeら8)は指数化したQOL指標を用いて、QOL改善に及ぼすタクロリムス外用薬の影響を検討しているが、彼らは多施設、二重盲検試験を行い902名の指数を解析した結果から、成人、小児および幼児を問わず、本剤は基剤に比較して有意にQOLの改善をもたらすことができたと結論付けている。
e. 小児ADにおける有効性
Boguniewiczらが180名の小児AD患者を対象として行った多施設、二重盲検試験を最初として、現在までに7件15-21)の小児ADにおける臨床効果に関する報告がみられた。このうち最も大規模な調査は、Reitamoら18)が2歳から15歳までの小児AD患者560名を対象として行った多施設、ランダム化二重盲検試験で、彼らによると0.03%および0.1%タクロリムス軟膏は、1%酢酸ヒドロコルチゾン軟膏よりも3週間塗布の比較試験では有意に高い有効性が示され、特に0.1%タクロリムス軟膏は0.03%のものよりもさらに有効であったとされている。Kangら16)は最長1年にわたる0.1%タクロリムス軟膏の長期投与試験を行なっており、臨床症状は外用開始1週後に著明に改善し、その後1年間有効性は維持されたと報告している。また、本邦では大槻ら19)が2〜15歳の小児AD患者221名を対象に3週間塗布のランダム化二重盲検比較試験を行なっており、0.03%および0.1%タクロリムス軟膏は基剤に比べて有意に高い有効性が示されたが、0.03%軟膏と0.1%軟膏の間では有意差は無かったと報告している。川島ら20)は2〜15歳の小児AD患者214名を対象に1年間塗布のランダム化オープンラベル試験を行なっており、1週後以降皮膚症状の改善が認められ、全般改善度が「中等度改善」以上では36週以降で0.03%軟膏群、0.1%軟膏群ともに約90%の改善率を示し、52週まで高い改善率が維持されたと報告している。

(2)安全性に関する文献
a. 成人における安全性
既に挙げたタクロリムス外用薬の有効性に関する研究のほぼ全てにおいて、同時に本剤の安全性および副作用に関する調査も行われている。これらの中でもっとも大規模かつ詳細に検討されているのは、Soterらが多施設、二重盲検試験として631名を対象に行った調査22)で、これによると最も多くみられた副作用は局所の灼熱感であり、次いで掻痒であったが、これらはいずれも一過性で使用開始1週間以内にかなり軽減していた。他に感冒様症状や頭痛などもみられたが、これらは一般人口でも頻度の高い症状で、実際他の同様の調査結果を検討しても、本剤との関連性が証明されるものではなかった。酒さやざ瘡、毛嚢炎、単純ヘルペスなどもみられたが、いずれも数パーセントまでであった。タクロリムスの血中濃度は約80%の検体で検出限界以下(<0.5ng/mL)であり、5ng/mL以上になったのは1014検体中3検体(0.3%)だけで、これらも一過性の上昇であり有害事象とは関係なかった。また本邦での2年間の長期使用における、有害事象の発現内容およびその頻度についての検討によると13)、開始1年以内には、やはりほてり感などの使用部位の刺激感が79.2%と多く、毛嚢炎や単純ヘルペスなどの皮膚感染症が20.8%、ざ瘡などの随伴症状も11.1%とされている。しかし、開始1年以降のこれらの頻度はいずれも低下傾向にあり、特に刺激感と随伴症状はそれぞれ5.5%および2.2%と著明に減少していた。また臨床検査値異常変動の多くは、合併症あるいは原疾患によるものとされ、1年以降は治験薬剤との因果関係が否定し得ないものは無かった。また、ReitamoらはAD患者14人と健常人12人の計26人を対象に、タクロリムス軟膏と吉草酸ベタメタゾン軟膏を用いて塗布部位のコラーゲン合成能と皮膚の厚さを調べているが、吉草酸ベタメタゾン軟膏塗布部位でみられたようなコラーゲン合成能の低下や皮膚の厚さの減少は、タクロリムス軟膏塗布部位では認められなかったと報告している23)。Fleischerらは、過去に行なわれた5つの臨床試験(患者総数1554人)の結果を解析し、タクロリムス軟膏塗布群と基剤塗布群で種々の皮膚感染症の発症率を比較したところ、成人における毛嚢炎以外には、両群間で有意差は認められなかったと報告している24)。これらの結果から、タクロリムス外用薬は安全性に大きな問題はないものと結論される。
b. 小児における安全性
成人の場合と同様、有効性を検討した臨床研究の全てにおいて、同時に安全性および副作用の調査も行われている。この中でKangら16)は最長1年にわたるタクロリムス外用剤の使用に際しての安全性調査をしているが、これによるとやはり成人と同様に、最も一般的に認められた局所の副作用は灼熱感であり、次いで掻痒であった。全身性の副作用としては感冒様症状と頭痛が多かったが、これらはいずれも軽症のものでタクロリムス蓄積量や使用期間との関連性は無く、明らかな季節性などもみられるため、タクロリムスと無関係のものであろうと考えられた。本邦では川島ら20)が1年間の長期投与試験で安全性を評価しており、治験薬塗布部位の刺激感は0.03%タクロリムス軟膏群で50%に、0.1%軟膏群で62%に認められたが、皮疹の改善とともに減少した。また、タクロリムスの血中濃度で3ng/mLを超えたのは0.1%軟膏群の2例のみ(全体で214例)で、これらの症例では皮疹の改善とともに血中濃度は低下したと報告している。
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