アトピー性皮膚炎 九州大学医学部皮膚科学教室TOPへ
合併症
アトピー性皮膚炎とウィルス感染症 アトピー性皮膚炎と細菌感染症 アトピー性皮膚炎と白内障
深川修司1)、安元慎一郎2)、絹川直子3)、野瀬善明4)、古江増隆1)
1)九州大学大学院医学研究院皮膚科、2)久留米大学医学部皮膚科、3)九州大学病院医療情報部、4)九州大学大学院医学研究院医療情報部
アトピー性皮膚炎と白内障
はじめに 病因 歴史的背景 その他の合併症 まとめ 参考文献
歴史的背景
アトピー性白内障は古くから2つの型があることが知られている。1つは古典的アトピー性白内障と呼ばれる前嚢下白内障であり、他の1つは後嚢下白内障である。前嚢下に始まる白内障は他に見られないので診断上の問題はないが、後者はステロイド白内障との鑑別に留意しなければならない20)。しかしながら先述のようにステロイド点眼剤による白内障の発症頻度の低さを考えると、アトピー性皮膚炎患者における白内障の発症頻度はステロイド外用剤に起因すると結論づけるにはあまりにも高頻度である。アトピー性白内障とステロイド外用剤の関連を論ずるにあたり、ステロイド外用剤が登場する以前のアトピー性白内障について歴史的考察を加えることは有意義であると考える。ステロイド点眼剤がはじめて臨床応用されたのは1950年、ステロイド外用剤がはじめて臨床応用されたのは1952年、本邦でステロイドの使用が認可されたのは1953年のことである。 乳児期より再発する湿疹を有し、喘息を合併している15歳女性に、わずか1年間の経過で急速に発症した両側性の白内障がDavisによって報告されたのは1921年に遡る21)。その後、1932年〜1934年にかけてアトピー性皮膚炎という診断名がSulzbergerらによって確立されたが、1936年にはBrunstingによって、Mayo clinicでの101例(平均年齢22歳)のアトピー性皮膚炎患者の詳細な検討が報告されている21)。特筆すべきことは、患者の多くは成人初期にもかかわらず101例中10例に白内障を認めたことである。彼はこれを「juvenile cataract」と呼んだが、患者には内分泌異常やビタミン欠乏は全く認められないことより、この合併頻度の高さは偶然の一致とは考えられないと述べている。そして皮膚が外胚葉組織として過敏反応を起こす組織であるならば、同じく外胚葉由来である眼のレンズも同じような過敏反応のtargetとなりうるのではないかと想定している。その後彼は、眼科医BairらとともにMayo clinicを受診した1940年〜1953年までの2784例のアトピー性皮膚炎患者のうち1158例の眼科検診を行っている2)。1158例中136例(男:女=69:67, 11.7%)に典型的白内障を認め、うち79例には視力低下があり、39例は片側性、97例は両側性であった。視力障害を訴えた79例のうち、初めて視力障害を自覚した年齢は10代21例、20代38例、30代13例、40代5例、不明2例であった。視力障害を訴えなかった57例のうち検診ではじめて白内障がみつかった年齢は、10代19例、20代27例、30代8例、40代3例であり、やはり思春期〜成人初期に集中していた。視力障害を伴った79例のうち34例は手術を要した。全症例で皮疹が数年来先行しており、136例中104例に乳児湿疹の既往歴があり、86例に喘息あるいは枯草熱の既往あるいは合併を認めた。また乳児期以後は、時おり関節部位に症状をみる程度に軽快していた発疹が、思春期以後に再び悪化・重症化し、しかも治療に抵抗することにも言及しており、この発疹の重症化に伴い白内障が出現しはじめ、しかもその進行は非常に急速であると述べている2)。はっきりとした記載が残っている29例では、視力消失をきたすまでの期間は12日〜1年以内であった。3例ではゆっくりと進行し、視力低下を経験してから完全に視力を失うまで3〜10年経ている。結論として彼らは、アトピー性皮膚炎に伴う白内障は進行することも進行しないこともあるが、進行する場合は急速でしかもアトピー性皮膚炎の周期的悪化と関連していると述べている2)。さらに彼らは、その2年後に、白内障は認められたが視力障害のなかった前述の57例にアンケート調査を行っている。回答が得られた36例中6例に視力障害が出現し、内3例は白内障手術を受けていた。皮疹は9例で治癒、15例でかなり軽快、12例に中等度〜高度の皮膚炎が継続していた。視力障害の出た6例はすべてこの12例の皮疹継続例に含まれていた22)。このようにステロイド外用剤が登場する以前のアトピー性皮膚炎のおよそ10%前後に白内障が合併するという報告がみられるわけであるが、その後アトピー性白内障については本邦を含め多数の報告がなされるようになり、その頻度を表1に列記した。その合併頻度は0%〜28%とさまざまであるが、ステロイド外用剤が臨床の場に登場する前後、あるいは洋の東西を問わず、10%前後とするのが妥当と思われる。また勝島らはステロイド外用剤を眼周囲に塗布した症例と塗布していない症例で後嚢下白内障の頻度を比較したところ、塗布眼では120眼中12眼(10%)、非塗布眼では30眼中5眼(16.7%)で有意差を認めなかったことから、完全には否定できないがステロイド外用剤の影響は考えがたいと報告している20)
トップページへ戻る 上へ戻る
九州大学医学部皮膚科学教室TOPへ