アトピー性皮膚炎 九州大学医学部皮膚科学教室TOPへ
スキンケア
研究分担者 秀 道広 広島大学大学院医歯薬総合研究科
研究協力者 信藤 肇 広島大学大学院医歯薬総合研究科
研究要旨 はじめに 研究目的 研究方法 研究結果 考察 結論 参考文献
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研究結果
1.アトピー性皮膚炎の症状に対する保湿外用薬の効果
ADに対する種々の保湿外用薬の効果が検討されていた。
本邦では、川島らがヘパリン類似物質含有製剤、尿素製剤およびワセリンの保湿効果をランダム化試験にて評価している16)。皮疹の重症度が軽微なAD患者36名をヘパリン類似物質含有製剤外用群、尿素製剤外用群およびワセリン外用群に振り分け、1日2回、3週間外用し、その後1週間の無治療観察期間をとり、角層水分量、経表皮水分喪失量、皮膚所見で有効性の評価を行った。全ての保湿薬で塗布1週間後から角質水分量が増加し、外用期間中は有意な増加が認められた。なかでもヘパリン類似物質含有製剤外用群は、尿素製剤およびワセリン製剤群に比べ、有意に高い角質水分量であった。また外用後の無治療観察期間では、ヘパリン類似物質含有製剤外用群の角質水分量のみが、開始時に比べて有意に高値であった。
他の保湿外用薬成分としては、精製ツバキ油17)、合成セラミド18)、海水濃縮ミネラル19), 20), 21) などの有効性が報告されていた。またその他にジアミド誘導体配合入浴剤22)、シャワー時に使用する5 % Dead sea salt 23)、12% ammonium lactate + 20% ureaを含む液状石鹸24)などの有効性が報告されていた。

2.アトピー性皮膚炎寛解維持における保湿外用薬の有用性
ADの増悪期にはステロイド外用薬またはタクロリムス軟膏の外用により速やかに炎症症状を抑えることが必要であるが、その後はステロイド外用薬をランクダウンしながら、保湿外用薬を使用し、皮膚炎が寛解した状態を長く維持することが大切である。
Szczepanowska 25)らは、52例のADに対しステロイド外用薬(0.1% methylprednisolone aceponate cream)を1日1回2週間外用するステロイド単独群と、同様のステロイド外用薬に加えて保湿外用薬(Balnium Baby® Cream)を外用する保湿剤併用群に振り分けたRCTを行っている。また2週間経過後は、ステロイド単独群では全く外用を行わず、保湿剤併用群では保湿外用薬のみの外用を継続して4週間観察した。その結果、両群とも2週間の治療後のEczema Area and Severity Index ( EASI )は有意に改善したが、乾燥症状の改善はステロイド単独群より保湿剤併用群が有意に大きく、かゆみについても保湿剤併用群においてより早期から改善する傾向にあった。さらに保湿剤併用群は、ステロイド単独群と比較してステロイド外用中止後の乾燥症状とかゆみの改善が長期間継続していた。
2009年Wirenら26)は、55例のAD患者を対象として3週間ステロイド外用薬で加療したのち、尿素含有保湿薬( Canoderm® cream )を1日2回外用する群(22例)と何も保湿剤を外用しない群(22例)にわけ、皮膚炎の再発の有無を検討している。6週間後に皮膚炎が再発した割合は尿素含有保湿薬外用群で32%、外用を行わなかった対照群で68%であった。また尿素含有保湿薬使用群の再発までの期間の中央値は180日以上(最長観察期間以上)であり、外用を行わなかった対照群では30日であった。
本邦では、川島ら27)が軽症から中等症のAD患者の寛解維持における保湿外用薬の有用性を検討している。彼らは、へパリン類似物質含有製剤を1日2回2週間塗布して寛解を維持し得た65名のAD患者を、ヘパリン類似物質含有製剤継続外用群と無処置群に割り付け、それから6週間後までの皮膚炎の再発率を検討した。その結果、へパリン類似物質含有製剤継続塗布群では32例中28例(87.5%)、無処置群では33例中20例(60.6%)が皮膚炎の再発がなく、継続塗布群における寛解維持効果が有意に高値であった。さらに6週間後までに再燃に至らなかった症例でも、無処置群では経過とともに皮膚所見およびかゆみが悪化する傾向があった。すなわち、保湿外用薬を継続的に外用することで、寛解期間が長期に維持され、かゆみも軽減した状態を保ち得ることが示された。

3.保湿外用薬併用によるステロイド外用薬の使用量への影響
Grimaltら28)は、12か月齢以下の中等症から重症のAD患児173例を対象に、ステロイド外用薬と保湿外用薬(Exomega®)を併用する群と、ステロイド外用薬のみで保湿外用薬を併用しないコントロール群に振り分けるランダム化試験を行い、6週間後までのステロイド外用薬使用量を検討した。治療開始後3週間のステロイド外用薬(high potency corticosteroids (Locatop®))使用量は、保湿外用薬を併用した群ではステロイド単独群より45.2%少なく、6週間では41.8%少なかった。また治療3週目に中等度から高度の乾燥症状を呈した患者数も、ステロイド単独群より保湿外用薬併用群の方が有意に少なかった。すなわちステロイド外用薬に保湿外用薬を併用することでステロイド外用薬の使用量を減少させ、さらに皮膚の乾燥症状の軽減においてもより有効であることが示された。
2008年のMsikaらの検討29)では、4から48カ月齢の軽症から中等症のAD 患者86例を対象に、隔日1回から1日2回のステロイド外用薬(Tridesonit® desonide 0.05% )と、1日2回の保湿外用薬(2% Sunflower oil Oleodistillate cream, STELATOPIA®)塗布を組み合わせ、保湿外用薬併用の効果を検討している。3週間の治療期間で、1日2回ステロイド外用薬のみ外用した群と、2日に1回のステロイド外用薬に1日2回の保湿外用薬を併用した群では、治療開始1週間後及び3週間後のSCORAD indexがいずれも有意に改善し、両群間でほぼ同等の効果が得られることが示された。

4.入浴、シャワー浴の効果
2003年望月ら30)は、小学生のAD患児を対象に学校でのシャワー浴の有用性を検討している。彼らは5月から8週間、微温水による全身のシャワー浴を実施し、保護者または養護教諭による皮膚症状の評価を行った。シャワー浴が遂行できた14例と遂行できなかった(8週間の間に2回以下のシャワー浴しかできなかった)6例を比較したところ、シャワー浴群ではシャワー浴開始後8週目で症状スコアの有意な改善がみられた。
亀好ら31)は、小学校1年生から中学校2年生までの中等症以上のAD患児58名を対象とし、学校でのシャワー浴の効果を検討した。彼らはシャワー浴非実施群、シャワー浴4週間実施群、前半または後半の2週間のみシャワー浴実施群に割り付け、9月初めの開始時、2週間後、9月末ないし10月初めの4週間後の時点で皮膚科医により評価を行った。その結果、4週間後にはシャワー浴を4週間実施した群のみ開始時と比較して有意な改善がみられ、重症度別には重症以上の群で効果が明らかであった。また、2週間後の変化に注目すると、高温多湿で運動会の練習時期と重なった前半2週間(9月前半)のシャワー浴で有意な改善が認められた。これらの結果から、ADにおける日中のシャワー浴の有効性が示され、特に症状が重症以上で、気温が高く、運動会の練習などで汗をかくことの多い9月前半までのシャワー浴により高い効果が得られることが示された。

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