アトピー性皮膚炎 九州大学医学部皮膚科学教室TOPへ
紫外線療法
研究分担者 高森建二 順天堂大学医学部附属浦安病院
研究協力者 種田研一 順天堂大学医学部附属浦安病院皮膚科助教
研究協力者 冨永光俊 順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所ポストドクトラルフェロー
要旨 はじめに 研究目的 研究方法 研究結果 考察 結論 参考文献
紫外線療法評価一覧
評価表の見方
評価法の見方
研究結果
上記検索式によるMedline 検索にて79編の論文が検出された。これらの中から有用な文献について報告する。
紫外線療法はステロイド外用薬を含む第1選択治療が無効な症例ないしはこれらの治療に対して抵抗を示す症例に用いられ、その有用性が認められている。しかし、その報告のほとんどが対照群さえないオープン試験であり、ランダム化比較試験(randomised controlled trial、RCT)が行われていないためにEBMの対象とはなりにくい。ここでは、PUVA療法、UVA1療法、Narrowband UVB療法、Excimer Laser療法など紫外線療法全般についてその方法と結果についてまとめる。

1.有益性
1)PUVA 療法
PUVA療法単独ではオープン試験のみでランダム化比較試験は行われておらずEBMによる有効性評価に耐えうる報告は今日まで認められない。Morisonら(1)は体表面の50%以上が侵されている重症アトピー性皮膚炎患者に、内服PUVA療法と紫外線B(UVB)療法、無治療のbilateral comparison studyを行った。その結果、PUVA療法はUVB照射より優れていることを示した。Jeklerら(2)は、UVB療法は体表面積の平均13%が侵されている中等症のアトピー性皮膚炎患者には有効であるが、広範囲に侵されている重症のアトピー性皮膚炎患者には有効でないこと、PUVA療法は重症の患者にも有効であることをpaired comparison studyにて示した。Yosiikeら(3)は従来の治療法に反応しない重症アトピー性皮膚炎患者を入院(48人)と外来(66人)に分け、外用PUVA療法の有効性を検討し、連日外用PUVA療法はステロイドの外用を併用しなくても81%で著効が得られ、平均6.4カ月の寛解期間が認められたと報告している。アトピー性皮膚炎に対してPUVA療法が有効であることから、彼らはPUVA療法のガイドラインを作成し、絶対的適応として他の治療に充分に反応しない患者、他の治療により副作用の発現している患者、相対的適応として重症であること、年齢が13歳以上、他の治療を受けたくない患者としている。英国光皮膚科学グループ(4)のPUVA療法ガイドラインによる効果的な方法は、初期のUVA照射量を最小光毒照射量(MPD)の70%とし、週2回、20%ずつ増加してゆく。MPDが測定されない場合には始めに1J/cm2、続いて週に2回0.5-2.0J/cm2ずつ増加してゆく。皮疹消退後はUVA照射量、回数を徐々に漸減していく。Der-Petrossianら(5)は慢性重症のアトピー性皮膚炎患者12人に対しbath-PUVA療法とnarrow-band UVB療法のrandomized investigator-blinded half-side comparison studyを行い、6週間、週3回照射により、SCORAD scoreがbath-PUVA療法で65.7%の、narrow-band UVB療法で64.1%の改善が得られ、両者とも等しく有効であったとしている(P=0.48)。Raynolds NJら(6)は中等度から重症のアトピー性皮膚炎患者に対してnarrow-band UVB、UVA、visible lightの照射効果を比較するためにrandomised control trial を行った。その結果、narrow-band UBV療法はUVA療法より効果があることを示した。Krutmannら(7)は高照射量UVA1療法とステロイド外用、UVA/UBV混合照射の効果をmulticenter trial にて比較検討し、高照射UVA1療法は急性増悪した皮疹に対してステロイド外用薬と同等の効果を示し、UVA/UVB療法よりも有意に効果があることを示した。Valkovaら(8)は中等度から重症のアトピー性皮膚炎患者に対してUVA/UVB混合照射単独群とUVA/UVB混合照射、ステロイド外用の併用群を比較し両者とも効果はあったが、併用群の方に効果が早く現れたこと、UVBの照射量が減少したこと、また寛解期間には差がないことを示した。

2)UVB療法
Narrow-band UVB療法はUVBのうちの311nmをピークとする幅の狭い波長の光線を使う方法である。PUVA療法と比べ、ソラレンの投与が不要、照射時間が短いなどのメリットがある。照射方法としては、MED(最小紅斑量)を測定し、その50%〜70%から開始し、20%ずつ増量していく方法(9)や50%の照射を繰り返す方法などが報告されている。Narrow-band UVB療法はオープン試験の結果ではアトピー性皮膚炎を改善する可能性がある。Raynolds NJら(6)は中等度から重症のアトピー性皮膚炎患者に対してnarrow-band UVB(26人), UVA(24人), visible light(23人)の照射効果を比較するためにrandomised control trialを行った。その結果、narrow-band UVB療法はUVA療法より効果があり、中等度から重症のアトピー性皮膚炎の有効な治療法であると結論している。Majoieら(10)は中等度から重症のアトピー性皮膚炎患者に対してnarrow band UVB療法と中等量UVA1療法を比較したところ、両者とも同等に有効であることを示した。Gmabichlerら(11)はアトピー性皮膚炎患者に対する中等量UVA1療法とNarrow-band UVB療法の効果をrandomized double-blind controlled crossover studyにて検討した。その結果UVA1療法とNarrow-band UVB療法とも同等に有効であることを示した。

3)UVA1療法
UVA1療法はUVAのうち340-400nmという長波波長の光線を用いる方法である。130J/cmという大量のUVA1を照射する方法も報告されている(7)。Krutmannら(7)は高照射量 UVA1とステロイド外用、UVA/UVB混合照射の効果をmulticenter trialにて比較検討し、high dose UVA1は急性増悪した皮疹に対してステロイド外用薬と同等の効果を示し、UVA/UVB療法よりも有意(P<0.0001)に効果があることを示した。Dittmarら(12)はUVA1療法の照射量の検討をrandamized, controlled, prospective pilot studyで行った。その結果、増悪したアトピー性皮膚炎には高照射量(max.single dose of 130J/ cm2, max. cumulative dose 1840J/cm2)と中等度照射量(max single dose of 65J/cm2, max.cumulative dose 975J/ cm2)が有効であること、低照射量(max.single dose of 20J/cm2, max. cumulative dose 300J/ cm2)では効果がないことを報告した。Tzaneva ら(13)は重症アトピー性皮膚炎患者のUVA1療法の有効な照射量(high dose, medium dose)をinvestigator-blineded, bilateral comparison studyにて検討した。その結果、中等度照射量UVA1療法は高照射量UVA1療法と同等に有効であることが示した。

4)Excimer Laser療法
Excimer Laser療法は308nmの波長の光線を使う方法である。ターゲット型照射方法であり、無疹部皮膚に対する不必要な照射を避けることができることが特徴である。
今のところオープン試験のみでランダム化比較試験(RCT)は行われていないが、アトピー性皮膚炎に対する有効性の報告がではじめている。Nisticoら(14)によるとアトピー性皮膚炎患者に対する週一回のExcimer Light照射でSCORADが平均で12.3から4.6に改善したと報告している。

2.有害性
紫外線療法、中でもPUVA療法の副作用は急性(光毒性急性皮膚症、色素沈着)と慢性(慢性光線性皮膚変性、白内障、発癌)に大別される。しかし、重要な副作用は発癌の問題である。
MedlineにてKey wordを(skin cancer) AND (ultraviolet therapy)としclinical trial、 humanのlimitsをかけて、また医中誌においては検索式を(光線療法OR PUVA) AND 皮膚癌 AND 有害事象RD=ランダム化比較試験,準ランダム化比較試験, 比較研究、RD=ランダム化比較試験,準ランダム化比較試験,比較研究 CK=ヒト のlimitsをかけて過去の文献を洗い出した。その中より有用と思われる文献について 考察した。上記の方法では検出されなかった論文でも重要と思われるものについては 採用した。これらの中から有用な文献を拾い出して報告する。PUVA療法は皮膚癌、 特に有棘細胞癌、メラノーマのリスクとなる。アトピー性皮膚炎患者のPUVA療法にお いても有棘細胞癌の多発例の発生を見ている(10)。有棘細胞癌の発癌リスクが照射 回数と用量に依存することから、British Photodermatology Group(4) はPUVA療法は 回数200回以下、総照射量は一生に1000J/cm2以下とすべきであるとしている。Stern ら(16)はPUVAと有棘細胞癌のリスクのmeta-analysisにおいて、200回あるいは2000J/ cm2以上の照射群での発癌率は100回あるいは1000J/cm2以下の照射群の14 倍高いことを報告している。Lindelofら(17)はPUVAと発癌の関係についての大規 模な疫学的研究を行い、200回以上PUVA照射を受けた患者は一般の有棘細胞癌の 頻度の実に30倍以上を示すことを明らかにしている。Sternら(18)はまた、300回以上 のPUVA照射を受けた患者の25%は15年間に有棘細胞癌が発生していること、メラノーマも用量依存的に発生することを報告している。SternのCohort study(19)による と、PUVA高照射量群の方がメラノーマ発癌リスクが高いこと、時間の経過と共に発癌 リスクが高くなることが示されている。しかしLindelofら(20)の、スエーデンの4,799名 を用いたCohort studyではメラノーマの増加は認められていないが、アメリカの1380 人のCohort studyでは総照射量が多いほどメラノーマの発癌リスクが高くなることが示 されている。最近になってNarrow-band UVB療法をうけた集団での皮膚癌の発生率 調査がManら(21)によって報告された。追跡機関の中央値は、4年(0.04〜13年)、 累積照射回数及び照射量の中央値はそれぞれ23回(1〜199回)、13.337mJ/cm2(30 〜284.415mJ/cm2)であった。皮膚癌の発生数は有棘細胞癌2人、悪性黒色腫2人、 基底細胞癌10人であった。有棘細胞癌と悪性黒色腫の発生率においてNarrow-band UVB療法との相関は認めないが、基底細胞癌の発癌リスクは高くなると結論してい る。しかし、Hannksela-Svahnら(22)の乾せん患者158人のcohort studyで bath-PUVAと皮膚癌発生との間にはなんら相関がないと結論している。またWeischer ら(23)の乾癬患者195人(Broad-band UBV 69人、Narrow-band UVB 126人)の Retrospective StudyによるとHannksela-Svahnらの報告と同様に光線治療と皮膚癌発 生との間にはなんら相関がないとしている。

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