アトピー性皮膚炎 九州大学医学部皮膚科学教室TOPへ
民間療法
研究分担者 中村晃一郎 埼玉医科大学皮膚科
研究協力者 滝口光次郎 埼玉医科大学皮膚科
要旨 研究目的 研究方法 研究結果 考察 結論 参考文献
民間療法評価表一覧
評価表の見方
評価法の見方
研究結果
前回の臨床研究でも報告したように、民間療法の有効性を示す報告としていわゆる一例報告が多く、プラセボなどの対照群を組み入れたRCT比較試験は少ない。筆者らの検討では、前回JMEDICINEの文献4,644,966件をもとに民間療法でRCT検討を行った例として、シジュウム含有塗布剤、クリーム外用薬、入浴薬によるものが認められた(5)。これらは、いずれも、コントロール群を設置しているが、少人数規模の調査であり、施設も限られていた。今回、2003年以降の民間療法の臨床研究について追加検討した。本邦報告例では医学中央雑誌で6例の報告が認められ、この内訳は、外用薬、香料、厳格な食事療法、鍼治療、ドルフィン療法などであった(文献6-11)(表1)。いずれも皮膚症状の改善を認めたが、対照群のない研究が多く、非RCT臨床研究であった。
また、民間療法に関する総説が認められた(文献12-15)。海外でのPubMedで抽出した臨床研究報告では、外用薬、ホメオパチー、鍼治療と漢方の併用療法、probioticsであった(文献16-22)。これらはRCT比較試験であり、対照群を有し、左右比較試験、クロスオーバー試験など、エビデンスレベルは比較的高いものも認められた(表2)。これらのPubMedで抽出された海外の報告ではprobioticsの臨床研究が多く認められ、皮膚症状が有効であった研究が認められたが、一方、同じ治療で有効性の認められない報告も認められた。これらの臨床研究を見るとITTがない研究、脱落例の記載のない研究、また外用療法などの併用療法の記述のない研究が認められた。
民間療法の種類として、これまでの報告では、健康食品、独自の軟膏や内服薬、エステテイックサロン、水、温泉水などを用いた療法、化粧品・入浴剤などに分類されているが(23)、今回の検討でも、食餌、皮膚への塗布剤、生活リズムや生活環境に関する治療法、物理的施術などによるものが報告されており、鍼治療などの施術、probioticsなどの内服薬によるRCT研究が認められ、評価されている(5)。
いっぽう過去におけるAD患者の民間療法の実態調査では、 「半数近く(41.9%)が効果があったと回答したが、30人以上試みた療法について検討したところ、特異的に高い有効性を持つものは存在しなかった」としている。また他の研究でも、「民間療法の種類にかかわらずその有効性が10−20%程度であり、これらの治療効果がプラセボ効果である」ことを示していると結論づけている(24,25)。
筆者らの検討では、民間療法のRCT臨床研究のなかで国内の報告では、対照群のない研究、ランダム化のない報告が大部分であり、したがってエビデンスの評価として高いものは認められなかった。上述したように、同じ治療でも有効性が認められない研究や、その他併用療法の記載のないもの、脱落例の記載のないもの、また施設が限定されているなどの報告研究が多く存在しており、条件によって大きく左右される可能性を示している。今後、これらを含めた評価が必要であると考えられる。
医学中央雑誌による民間療法を施行した症例報告で、皮膚炎が悪化し、民間療法を中止している症例が多数報告されていた。民間療法における不適切治療に関しては、すでに多数報告されており、筆者らも前回の報告で検討している(5、26−80)。これらの不適切治療による悪化事例に関しては、@ウイルス感染症(カポジ水痘様発疹症)や接触皮膚炎などの皮膚症状の合併症・悪化を生じたもの、A民間療法によって全身の機能異常を生じたもの(厳格な食事療法による栄養障害・成長不全など)、B民間療法で使用した薬剤、あるいは混入した物質によって副作用を生じたもの(肝機能異常、腎機能異常など)などが報告されており、今回の検討でも同様の結果が認められた。
これらの報告例の多くはステロイド外用薬を使用しない治療法が多く、不適切治療による皮膚炎の悪化事例が合計35例認められた(81-99)(表3)。これらの不適切治療の多くは、ADの標準治療より逸脱した症例が多く認められた。重篤な症状としてオゾン療法を試み、上矢状動脈血栓症を生じた症例、また多飲水療法、外気療法によって意識障害を生じた症例などが認められた。不適切な治療に関しては、今後も注意深い検討が必要であり、再認識する必要があると考えられる。
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