アトピー性皮膚炎 九州大学医学部皮膚科学教室TOPへ
シクロスポリン内服療法
研究協力者 藤本 学 金沢大学大学院医学系研究科皮膚科学
要旨 はじめに 研究目的 研究方法 結果 考察 結論 参考文献
シクロスポリン内服療法評価表一覧
評価表の見方
評価法の見方
考察
本研究では、2003年以降のシクロスポリン内服療法についてエビデンスを集積した。欧米では、多くの国ですでに適応の承認が得られているためか単純な有効性を検討した試験の報告はなかったが、Schmittらの報告では、過去の質の高い研究のメタ解析を行い、シクロスポリン内服療法の有用性を改めて立証している。一方、本邦では、シクロスポリンの適応追加の臨床試験が行われており、その臨床試験の結果が質の高いエビデンスとして報告されている。シクロスポリンは、2008年にADに対して承認され、ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤等の既存治療で十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上に及ぶ患者に適応が認められている。痒疹結節や顔面の難治性紅斑を呈する例やステロイドの長期連用による副作用をきたしている例などを含む既存療法が無効または不適切であった重症成人アトピー性皮膚炎患者が主な対象となる。用量は、1日量3mg/kgを2回に分けて投与し、症状により5mg/kgを超えないように適宜増減することになっている。本症におけるシクロスポリン内服療法は、主として急性増悪の危機を乗りきる目的で使用するのに適しており、症状が軽快したら8-12週で内服を終了し、標準的な外用治療に切り替えるという寛解導入目的に使用する。
今後検討すべき課題として、内服方法は重要である。シクロスポリンは一般に1日2回食後の内服が推奨されている。しかしながら、薬物動態としては、1日1回にまとめて内服した方が高い血中濃度を得られることから、理論的にはより高い治療効果が得られると考えられる。また、食前投与の方が同じ用量で高い血中濃度が得られる可能性が高い。
また、長期投与の有効性と安全性も、Schmittらが指摘しているように、まだ確立しているとはいえない。長期投与が必要な例においても、間歇投与を主体に行うことになっているが、さらなるエビデンスの集積が望まれる。
一方で、Pacorらによる、同じカルシニューリン阻害薬のタクロリムス外用との比較試験の報告は、外用療法の重要性を改めて示すものであり、安易にシクロスポリン内服療法に頼ることに対する注意を改めて喚起しているものといえよう。ADは長期にわたる疾患であり、外用剤塗布の煩わしさや負担、それにともなうQOLの障害は想像以上のものがある。こうした中で、シクロスポリン内服療法はAD患者の福音となると考えられるが、安易な使用はかえってQOLを障害する可能性があることを銘記すべきである。また、薬価も高価であり、医療経済上の問題も大きい。このように、シクロスポリン内服療法にあたっては、適応、投与量、使用期間について添付文書やガイドラインを遵守すべきであり、患者またはその家族に有効性及び危険性を予めよく説明し、理解したことを確認した上で投与する必要がある。
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